🎙️ 経営者の発信術

話すのが苦手な経営者のための「インタビューされ方」入門

「取材を受けてほしい」「Podcastで話してほしい」と言われて、真っ先に浮かぶのが**「うまく話せる気がしない」**という不安──この記事は、そういう経営者のための「受け手側」の入門です。

先に安心材料をひとつ。インタビューは「上手に話す場」ではありません。質問に答える場です。ゼロから語る必要がなく、聞き手が順番も深掘りも設計してくれる。実は「話すことがない」「話すのが苦手」という人にこそ向いた形式です(この点を指摘する論考もあります)。そのうえで、少しの準備とコツで聞きやすさは大きく変わります。

準備編 ── やることは2つだけ

① 伝えたいことを「1つ」に絞る

広報の実務ガイドでも、取材前の準備としてまず挙がるのが「伝えたいメッセージを絞る」ことです(PR TIMES MAGAZINE)。あれもこれも話そうとすると、全部が薄まります。「今日はこれが伝われば成功」という一点を決めておくと、話が散らかっても戻る場所ができます。

② 原稿ではなく「箇条書きメモ」を用意する

ここが最大の落とし穴です。不安な人ほど完全原稿を書きたくなりますが、暗記した言葉は棒読みになり、かえって不自然に聞こえます(広報ノウハウ解説)。Podcast配信の実践者たちも、完全原稿より箇条書きメモを勧めています(かねりん氏のnote)。用意するのは「話したいエピソードの見出し」程度。言葉はその場で、会話として出すほうが伝わります。

前日までにできる準備 ── 余裕があれば、ここまで

準備の柱は前の2つで足ります。ただ、雑誌やウェブメディアの取材、対談番組のような少しあらたまった場では、次の準備を足しておくと当日の余裕が変わります。広報の実務ガイド(PR TIMES MAGAZINE)で挙げられている準備項目のなかから、受け手側に効くものを選びました。

  • **聞き手と媒体を軽く調べる。**どんな読者・リスナーに届く媒体なのか。インタビュアーは過去にどんな記事を書いているのか。10分の下調べで「誰に向かって話すか」の解像度が上がり、言葉の選び方が自然に変わります。
  • **想定質問に、声に出して答えてみる。**書くのではなく、話すのがポイントです。「創業のきっかけ」「いちばん苦労したこと」「今後の展望」。この定番3問に一度だけ声で答えておくと、当日の立ち上がりがまるで違います。答えを覚える必要はありません。一度声にした話は、本番でも出てきます。
  • **数字を手元に置いておく。**創業年、社員数、主要な実績。あやふやな記憶で数字を口にすると、間違いがそのまま記事に載ります。1枚のメモにまとめて、見える場所へ。
  • **「言わないこと」を先に決めておく。**取引先の内情、公開前の計画、他社への評価。広報の世界では「オフレコは通用しない」が原則とされています(PR TIMES MAGAZINE)。公にしたくない話は、そもそも口にしないのが安全です。
  • **伝えたいことは、多くても3つまで。**経営者のメディア対応の解説では、「読者に記憶してほしいキーメッセージを3つに絞り込む」ことが勧められています(ペルソナ社の解説)。ただし初めての取材なら、前の章のとおり1つで十分です。絞る方向に迷ったら、少ないほうを選んでください。

本番編 ── 4つのコツ

  1. **「取材」ではなく「会話」だと考える。**記者やインタビュアーと雑談しているつもりで話すと、声のトーンが自然になります。かしこまるほど硬くなります。
  2. 結論から、短い文で。「結論→理由→エピソード」の順で、一文を短く切る。長い一文を接続詞でつなぎ続けると、聞き手は迷子になります。
  3. 数字と固有名詞を1つ入れる。「昔、大変だった」より「創業3年目に、月商が半分になった」。具体が1つあるだけで、話は一気に本物になります。
  4. **言い直していい、と最初に決める。**収録なら沈黙も言い間違いも編集で消せます。「録り直し可能」を前提にすると、緊張は半分になります。

受け答えの実例 ── 同じ質問でここまで変わる

コツを並べるより、例を見るのが早いでしょう。よくある質問2つで、惜しい答えと良い答えを比べます。

Q. 創業のきっかけを教えてください。

  • 惜しい例:「大学を出て最初は商社に入りまして、そこで5年、いや6年ですね、営業をやって、そのあと一度転職をしまして──」
  • 良い例:「前職の営業時代に、どうしても売れなかった商品が1つありまして。それが悔しくて独立しました。創業して12年になります」

惜しい例に、うそも誇張もありません。ただ、時系列を頭からなぞると、聞き手は「どこが本題か」を見失います。良い例は結論(悔しくて独立した)から入り、数字を1つ置いて、続きを聞きたくさせる。「何がそんなに悔しかったんですか?」という深掘りは、聞き手がしてくれます。

Q. 御社の強みは何ですか。

  • 惜しい例:「いやいや、うちなんて大した会社ではないんですが……強いて言えば、お客様に寄り添う姿勢でしょうか」
  • 良い例:「納品後の手直しを、期限を切らずに受けていることです。手間はかかりますが、紹介のお客様が増えたのは、これが理由だと思っています」

「お客様に寄り添う」は、どの会社でも言えてしまう言葉です。自社では当たり前になっている具体的な行動を1つ挙げるほうが、聞き手には強みとして届きます。強みが浮かばないときは、「同業がやりたがらないのに、うちがやっていること」を探すと見つかります。

答えに詰まったとき・聞かれたくないことを聞かれたとき

準備をしても、詰まるときは詰まります。そのときのための引き出しを3つ持っておいてください。

  • **黙って考えていい。**収録なら、沈黙は編集で消せます。「少し考えてもいいですか」と口に出すのも、その場をごまかすより誠実に映ります。急いで埋めた言葉ほど、あとで聞き返して悔やむものです。
  • わからないことは、わからないと言う。「その数字はいま手元にないので、後ほど確認してお伝えします」で構いません。あやふやな記憶で答えるほうが、誤った情報が記事に残るぶんだけ危険です。
  • **答えにくい質問は、受け止めてから伝えたい話へ橋を架ける。**メディア対応では「ブリッジング(橋渡し)」と呼ばれる方法です。質問を否定せずにいったん受け止め、「たしかにそうですね。ただ、より大事だと考えているのは──」と、自分の伝えたい論点へつなぎます。逆に、黙り込むことと感情的に言い返すことは、最悪の対応とされています(ペルソナ社の解説)。

3つに共通するのは、「取りつくろわない」ことです。詰まった姿も、考えながら話す姿も、聞き手から見れば人柄の一部です。完璧な回答より、正直な間のほうが信頼されます。

よくある失敗パターン

  • 暗記棒読み: 原稿を読み上げてしまい、人柄が消える。→ メモは見出しだけにする
  • 一問長答: 1つの質問に5分話し続ける。→ 短く答えて、深掘りは聞き手に任せる
  • 専門用語の連発: 業界では常識でも、聞き手には外国語。→ 中学生に話すつもりの語彙で
  • 謙遜しすぎ: 「大した話ではないですが」を連発すると、本当に大した話に聞こえなくなる。→ 謙遜は最初の一回だけ

慣れの話 ── 収録は「言葉の筋トレ」

うまく話せるようになる最短の道は、テクニックではなく回数です。自分の声を聞き返すと、話す速さや口癖が客観視でき、回を重ねるごとに整っていきます。700回以上配信を続けるPodcast実践者は、これを「言葉の筋トレ」と表現しています。

だからこそ、最初の数回は出来を評価しないこと。「月1回、質問に答える」を淡々と続けるうちに、話すことは技術ではなく習慣になります。

取材のあと ── 1回のインタビューを資産にする

話し終えたら終わり、ではもったいない。受け手側の事後対応にも定石があります(PR TIMES MAGAZINE)。

  • **お礼は当日中に。**できれば取材当日のうちに、聞き手へお礼のメールを送ることが勧められています。数分で済むうえ、次の取材につながるいちばん簡単な種まきです。
  • **直せるのは「事実の誤り」だけ。**掲載前の原稿を見せるよう求めるのは、メディア取材ではマナー違反とされています。訂正を依頼できるのは、固有名詞・数字・事実関係の明らかな誤りまで。記事の論調や表現に注文をつけると、記者との信頼関係が壊れます(ペルソナ社の解説)。
  • **記事は使い回す。**掲載された記事は、転載の許諾を確認したうえで、自社サイトやSNS、営業資料でも紹介できます。1回のインタビューが、掲載後もずっと働いてくれる。この「蓄積型」の考え方は月1回の発信で本当に効果はあるのかで詳しく書きました。

なお、自社で企画するPodcastやオウンドメディアの収録なら、公開前の確認も使い回しも自社の裁量です。外部メディアの取材に備えた練習台としても、自社収録は都合の良い場所です。

まとめ

  • インタビューは「上手に話す場」ではなく「質問に答える場」。苦手な人にこそ向いている
  • 準備は「伝えたいこと1つ+箇条書きメモ」まで。完全原稿と暗記は逆効果
  • 余裕があれば、聞き手の下調べ・声に出す練習・数字のメモ・「言わないこと」決めを足す
  • 結論から短く、具体を1つ。言い直しOKを前提に
  • 詰まったら黙って考えていい。答えにくい質問は、受け止めてから橋を架ける
  • 取材のあとは、お礼・事実確認・使い回しで1回を資産にする
  • 上達は回数。月1回の収録が言葉の筋トレになる

それでも「隣に聞き上手がいてくれたら」と思う方のために、私たちのサービス VoicePress の収録には、リアルタイムで「次はこの話を」「もう少し詳しく」と提案するAIコーチが付いています(毎月の質問も運営が用意するので、白紙から話す場面がありません)。この形式で作られた経営者連載の実例は「Shikisai」で聴けます。話すのが苦手だった代表自身の連載「ウェブリカラジオ」も、この仕組みで収録しています。

よくある質問

Q. 話す内容を全部原稿にして暗記してはだめですか?

おすすめしません。暗記した言葉は棒読みになり、かえって不自然に聞こえます。用意するのは「伝えたいこと1つ+話したいエピソードの箇条書きメモ」まで。あとは質問に会話として答えるほうが、聞き手に伝わる話になります。

Q. 沈黙してしまったり、言い間違えたりが怖いです。

生放送でない限り、沈黙も言い直しも編集で消せます。収録では「言い直してもいい」と最初に決めておくだけで緊張は大きく下がります。むしろ言い直せる前提で、途中で立ち止まって考えるくらいが自然な語りになります。

Q. 何回くらいで慣れますか?

個人差はありますが、収録は回数を重ねるほど慣れていきます。自分の声を聞き返すと話し方の癖が客観視でき、定期的な収録は「言葉の筋トレ」として機能します。最初の数回は出来を評価しないと決めて始めるのがコツです。

Q. オンライン取材やリモート収録で、特に気をつけることはありますか?

静かな場所と安定した通信の確保が第一です。可能ならイヤホンマイクを使うと声がクリアに届きます。相手が話している間の相づちは、声に出すと音が重なるので、うなずきで返すのがリモートの作法です。開始5分前に接続を済ませておくと、落ち着いて始められます。

Q. 服装や見た目は、どこまで気にすべきですか?

音声だけの収録なら服装は自由です。写真撮影や動画がある場合も、普段の仕事着の少しきれいな版で十分です。着慣れない正装は、かえって表情と声を硬くします。細かい柄のシャツは画面上でちらつくことがあるため、無地に近いものが無難です。

VOICEPRESS

月1回、話すだけで、これが全部自動になります。

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